上位の肯定的レビュー
5つ星のうち5.0あったかい漫画だよ…
2020年7月26日に日本でレビュー済み
釣り漫画は山のようにあってもう飽きました、放課後ていぼう日誌だけで充分で御座いますという考えのもとスルーしていた本作を読む切っ掛けになったのは1巻が77円セールで売られていたからだったわけですがそれで読んで一気にすきになってしまい、こうして2巻も購入して読んだ次第であります。1巻ではひよりと小春、内気な性格だけどアウトドア派、陽気な性格でインドア派、的に価値観に相違のあるふたりが家族として関係を深めていくお話でありました。自分の好きなものを相手にも好きになってほしい、相手の好きなものを自分も好きになりたい、そんなお互いの気持ちを尊重し合う友情物語を読みながら、きらら漫画を類型に当てはめて読むのを避けていた己の漫画読みとしての偏見を恥じましたね。この巻の最初の話でも小春がちょっと釣りを途中退場してしまっただけでお互いに相手を傷つけたのでは、釣りが好きじゃなくなったのでは、と心配する姿が微笑ましいものです。そんなふたりをみまもる恋の優しさも、見ていてホッコリしますな。彼女はまだ釣りをやりませんが。
2巻では釣屋の姉妹の妹、二葉が話のメインでありあす。彼女は釣り好きのひよりに対して、釣りが趣味なんて恥ずかしくないんですか、と聞きます。すぐ後にさくっと謝る二葉ですが、その言葉が引っかかったひよりは彼女を釣りに誘います。此処でもさり気なく恋が橋渡し役になるのが良いです。
その二葉は元々アウトドアな女子で男子と一緒に外で遊ぶような子でしたが、クラスの女子たちから「女の子が男の子の遊びをするのは変、男子が好きだからじゃないか」と言われたのを気にして自分の趣味を隠すようになります。この陰口、「女の子が男の子の遊びをするのが変」でなく、「男子が好きだからじゃないか」のほうが重要です。要は女子というファンダムに順応しようとせず、男子の集まるファンダムに収まろうとしている(ように見える)二葉は男子に媚を売っているのだろうと。ここで自分の好きなものは好き、と意志を貫くのは大変です。これがひどくなると女子から弾かれていじめに繋がりかねません。9話の扉で友達の藍子が子ども扱いするケイドロに興じようとする男子をみつめる二葉の姿は暗喩的な表現ですが、11話の扉で暗い部屋から窓の外を眺める二葉の姿は比喩であり、彼女の辛い心中をより伺う事ができます。
彼女は自分の友人に、自分の好きなものを知ってもらいたいと言いますが、此処で恋が別に友人だからと全てを話す事はないと言うのもひとつの優しさです。何故ならそれが藍子に拒絶されてしまったら、彼女は終わりです。この二葉の抱える悩みはひとつの優しい結末を迎えますが、彼女に陰口を叩いた女子たちと二葉との関係が修復される事はないままなのかも知れません。共に親を亡くした過去を持つひよりと小春、家族を亡くした友人のひよりに踏み込む事が出来なかった恋、明るく楽しい作品でも本作には感傷があります。そんなまだ若い彼女たちにこれ以上辛い思いをさせないように、作者自身が配慮するように描いており、こうなんというか、居間で眠ってしまった娘に毛布を掛けてやる親の視座のような、さり気ないあったかさのある漫画だなあと思いました。