上位の批判的レビュー
5つ星のうち2.0お姫様願望の持ち主と、支配願望の持ち主が、強烈な共依存関係を築く話。
2018年3月5日に日本でレビュー済み
主人公は、究極のお姫様願望の持ち主だと思います。自分が大切にされるかどうかに精一杯で、それゆえ常に他者からの評価に振り回されていますが、自分が他人に何かしてあげるという発想で動いている場面はまったくありません。星名のために、と動く時も、「そうすれば星名さんが私を見てくれるから」という損得勘定が根底にあり、星名が喜ぶかどうかは関係がありません。彼女にとって人間関係とは常に取引であり、そこに愛情がありません。主人公だけでなく、ほぼすべての登場人物が損得勘定で動いている故に、非常に悪意に満ち満ちた陰鬱な作品になっています。
主人公のお姫様願望と、星名の支配欲がマッチしてみごとな共依存関係を築いています。一見、支配されているのは主人公のように見えますが、実際は支配するものとされるもののはどちらも強烈な支配欲を持っています。主人公はお姫様になることで星名を支配し、星名は主人公を奴隷のように扱うと同時にお姫様に支配されているのです。そして、ふたりだけに了解できる世界の中で「自分は特別な存在だ」と思い込み、どこかで他者を見下しています。そうした冷酷で無残な感情をもつからこそ、ふたりはますます惹かれ合うのでしょう。現実世界においても、支配者は支配される人間を嗅ぎ分けるのが天才的に上手だし、お姫様も自分をお姫様扱いしてくれる人間を選ぶのが驚くほど上手です。程度の差はあれ、巷によくある話であると思います。
登場人物がもつ悪意の背景には「悲惨な過去」が必ず用意されていますが、人間は皆過去に負けてしまうものではありません。どんな悲惨な過去があろうと、悪意に負けてしまう人間だけではないことを私たちは知っています。だから、主人公にも、星名にも、私は1ミリも同情できないのです。俺を殺せというならひとりで死ねばいいと思います。どんなに酷いことをされてもそばにいたいのなら、どうぞご勝手に、と思います。
自分を大切にする人をこそ、私は応援したいと思います。この物語の登場人物を、私は応援することができませんでした。