上位の肯定的レビュー
5つ星のうち5.0廻り続けた物語
2017年8月30日に日本でレビュー済み
2017年8月時点でレビュー130件、しかも星5が118件の高評価。
レビューを書いてもすぐ埋もれるでしょうし、廻覧板を未読なので見当違いもありそうですが、色々感想が湧くので片隅に失礼します。(ネタバレあり)
下町の日常を舞台に続いてきたストーリーも遂に完結。128話から怒涛の展開とこれからも日常が続く的なオチを迎えます。
あくまで自分の主観ですが、14巻で真田が言っていた「良い思い出がその人を良い人にする。すると良い人と良い人が出会って良い事が起きるんだ」は、この物語の本質に沿う台詞だと思います。
主人公の歩鳥は家族や商店街の人達との間で、まさに良い思い出を沢山育んできた子です。
128話での決断も歩鳥が聖人だからではなく、積み重ねてきた思い出が彼女をそういう子にしたのではと思います。
確かにシーサイドやこの下町が彼女を取り巻く全世界なら、あの決断もアリかなぁと。
これと対極なのが紺先輩。
歩鳥が三人兄弟、探偵脳以外では結構凡人、可愛いけどタヌキ呼ばわりされるのに対して、紺先輩は一人っ子、天才肌、スタイル抜群の美少女と設定も色々対照的です。髪の色も歩鳥が黒に対して紺先輩は白(金髪に染めてる)です。
周囲から質の良い愛情をかけられてきた歩鳥と違い、周囲からの羨望や嫉妬で否応なく壁を築かれてきた紺先輩は、
家族以外の対人関係で良い思い出のない、もう一人の主人公だったのではと思います。
けれど紺先輩も歩鳥と出会った高校生活で良い思い出が作れたので、この先きっと大丈夫でしょう。
個人的には、室伏先輩がとても気になります。
真相を追求する探偵志望の歩鳥と違い、錯覚する(騙される)のも面白いと感じる絵描きの先輩。
初対面でユキコから恐れられたり、再登場以降の話も「赤」「虚」「悪」と不穏を連想させる一文字タイトルなのですが、最終巻であの描写は…。
思い出いかんに関係なく、邪悪に魅せられる素質のある人ということでしょうか。
登場人物の視点や時間をぐるぐる廻り続けた物語も、エピローグで見事終結します。
「自分が書いた物語を読んでくれる自分」という、静お姉さんがぐるぐる廻し続けてきた創作世界に終止符が打たれます。
けれど、これは同時に歩鳥の巣立ちでもあります。
歩鳥が高校生活三年間の時間軸を超えて、創作を通して外の世界へ踏み出したことで、この物語は終わると同時に始まりを迎えます。
完結してもなお、それでも町は廻っている…。
色々勝手な解釈を書き連ねましたが、素晴らしい物語をありがとうございました。