上位の肯定的レビュー
5つ星のうち5.0レビューがいっしょくたになってますが横山光輝版へのレビューです。
2022年4月25日に日本でレビュー済み
江戸川乱歩の原作の文庫とレビューが一緒になってしまっているようですが、これは講談社漫画文庫の横山光輝の漫画へのレビューです。
収録作は「白髪鬼」、「大暗黒」、「魔界地帯」、「邪神グローネ」、「俺はだれ?」の五編。
「白髪鬼」は江戸川乱歩原作のコミカライズ。元をただせば海外のマリー・コレリの小説を黒岩涙香が翻案し、それを更に乱歩が翻案したものを、またまた横山先生がアレンジしたということになります。
妻と友人に裏切られた男が、姿を変えて復讐するという物語ですが、乱歩版では逮捕されて懺悔するのに対して、復讐したところで終わります。むかしの日本の復讐ものは、出版時の倫理的な問題なのか、捕まったり、自分も発狂したりするものが結構多いので、この方がスッとしますね。横山先生は女性不信なのかと思うような作品が割とありますが、本作の悪女描写もなかなかのものです。おおもとが海外の小説だから当たり前ですが、墓地が「火刑法廷」などで見るような地下室なのが日本としては奇異です。
「大暗黒」は小栗虫太郎の同名小説、「人外魔境」シリーズの一篇のコミカライズ。もとは探検シーンは意外と淡白で、主人公山座は深部まで行かず、その存在も無電で知らせるし、小栗らしい超論理・超現象のエピソード(空中浮遊)などもありますが……本作は山座をメンバーとした調査隊の探検部分に重きをおいていて、探検ものという点においては原作より「らしい」ものになっています。結末も謎を残す恐ろしいもの。一応、冒険中の出来事などは、原作にも書いてあることだったりもするのですが、こちらの方が強調されています。もちろん原作に無いアクシデントもかなり追加されています。小栗ものと考えずに単に探検ものとして見たら、本作の方がよく出来てるかもしれません。
「魔界地帯」は、異空間に飛んでしまう穴を見つけてしまった青年の悲劇。横山作品定番の柔和系の顔立ちの美青年が主人公で、しかも何も悪いことをしていないのに、ひどい目にあってしまうというのは可哀想であります。
「邪神グローネ」は、海底火山の噴火をきっかけに発見された像に奇怪な力があることを知った男が悪用をはかり、それに途中で気づいた主人公たちが止めようとするもの。作品の都合上、苦労のわりに邪神が弱いという話が多いですが、これは非常に強く、それを主人公たちが食い止めるので、なかなか迫力のある作品です。
「俺はだれ?」は、なんとなく、よくある気がする短編。ただ、ありがちゆえに面白くもあります。既に不倫をしている遺産目当ての妻をもった大富豪の老人が、病気で余命いくばくもないため、ある男に誘われて若い男と体を交換するというもの。しかし、老人も若い男も皮肉な結末を迎えます。
陰惨ですが、完遂するので痛快でもある「白髪鬼」が、タイトル通り白眉でしょう。小栗ファンとしては、かなりアレンジされているものの、「大暗黒」の収録も嬉しいところです。「白髪鬼」あたりは他の短編集にもとられていたと思いますが、あまり見ない作品も収録されているので、貴重な一冊。