上位の批判的レビュー
5つ星のうち3.0キャラが魅力的で、先も気になる。だが演出に物足りなさも。
2017年5月16日に日本でレビュー済み
冬目景氏には珍しい恋愛もので、SF要素もありません。主人公リクオが、ハルと榀子の二人の間で揺れ動く物語です。基本的には面白いと思います。著者独特のクールな作風は健在で、それがオトナな雰囲気を醸し出しています。ただ、恋愛ものではメリハリも大事で、熱くなるシーンがあることで説得力が出ますが、この点は弱いと感じました。本レビューは全巻を通読してから書いていますが、巻が進むにつれてその弱点が際立つようになりました。
面白いと感じた点は、主要キャラクターが魅力的で、最終的にどちらとくっ付いても不思議でなく、だからこそ先が読めないという点でした。様々な新キャラクターが既存の登場人物の関係性を乱していき、その度に緩やかに、しかしじっくりと変化していきました。誰しもに悩みがあり、そういった陰影もよく描けていたと思います。
物足りないのは、そうした登場人物の悩みについて、苦しむ様子や克服する様子を、直接には描写しなかったという点です。確かに、そうした精神的な部分を描かずとも物語は成立します。ミステリアスなキャラクターであれば、敢えて描かないというのも演出だと思います。しかし、恋愛をテーマにした作品では、それを一切なくしてしまうのは「逃げ」です。胸を熱くさせる、読者に感動を与えるのは、悩みに立ち向かう登場人物の姿勢にあるはずです。表面的に、何気ない会話をして、それに一喜一憂して、勝手に決意したり思いついたりして、読者はあらすじを読みたいわけではありません。
第10巻では、悩みに悩んだハルがバイトをズル休みするのみならず、三重に帰ってしまいます。ハルとどう向き合うかがテーマで、リクオと榀子の間のもどかしい空気にも一石が投じられます。それにしても、イエスタではキャラクターが重大な決意で何かを言っても、それほど長々と言い合いになることはなく、すぐ終わってしまいますね。もっと話せば、本音の本音みたいな部分も出てくると思うんですが…惜しい。