上位の批判的レビュー
5つ星のうち3.0たった一人のヒーロー
2019年5月25日に日本でレビュー済み
途中までは大変面白かった。一冊の漫画にここまで没頭したのは久しぶりだ。
読みごたえがあって、でもずるずると引きこまれる圧倒的な描写力がある。
だが最後はどうなんだろうか。ヒーローが狩られる理由に全然納得がいかない。黒幕もその思想も。
最後まで読み終えると、そこに深いようで浅い。思慮深いようで傲慢で安直な考えがあるように思えてどうしても好きになれなかった。
途中までは濃密な人間描写があり、ヒーローたちには血が通っているのだが、ラストで急に彼らが物分かりの良い人形と化しているように思えて閉口した。
え?それで好いのかお前らって感じで。葛藤する描写もあるにはあるが表面的なだけで答えは出ている感じだ。
これは日本のヒーローものにもよくある。
例えば法で裁けぬ悪を登場人物の一人が不当に殺してしまったとして、最後に誰かが訳知り顔で言うのだ。
「彼のやった事は本当に悪と言えるのだろうか?」
こういう展開が私は嫌いだ。登場人物はまるで中立的な立場でものを言ってるように語るが、そうではない。完全に片方の意見に傾いた独善的な台詞なのだ。これは問いのようでいて答えであり、実の所作者の答えは決まっていて、彼は読者にこう言いたいだけなのだ。
「正しいに決まってるだろ。」
ただそう言うと間が抜けて聞こえるので(もしくは自分が客観的視点に立っていると言う幻想を持っている)こう言う物言いをさせるだけだ。こう言った手法は卑怯であるし、不誠実でもあると考える。
ロールシャッハだけは好きだった。終盤人形と化したヒーロー達の中で最後まで彼だけは人であり、紛れもないヒーローであった。訳知り顔で物を語らず最後まで戦い続けた。
彼は狂人だったが、それは彼が最後まで人であった証だ。
ヒーローとは神様気取りのサイコパスの事ではない。悩み苦しみ、己の矜持を守る為、戦い続ける人間の事だ。
この作品は嫌いだがロールシャッハだけは好きだし彼の生き様に敬意を払いたい。
闘う者には敬意を払うべきなのだ。それがどんな最後を迎えようとも。