上位の肯定的レビュー
5つ星のうち4.0原作はやはり、超えなかった。残念。
2019年3月31日に日本でレビュー済み
原作の良さを削ってしまった作品。
勿体ない。非常に勿体ない漫画化となってしまいました。
物語としてはよくある転生もの。現代で34歳までニートとして過ごした屑みたいな男が、家を追い出され、トラックに轢かれ、剣と魔法の世界に転生し、俺強えええしながら生きていくお話。
ここまで聞くとよくある、本当によくある、なろう小説の典型ものだと思います。しかしたった一つ加えさせてもらうなら、このなろう小説のテンプレートの潮流ができたのは、この作品の後だ、ということです。この作品が面白すぎたから、後に続く人達がこぞってこの設定を真似しだした、ということなのです。
この原作小説の素晴らしい所は、なろうのテンプレートともなった設定…ではなく(勿論、それも素晴らしいのですが)、主人公の心の成長、心理描写を丁寧に描いているという所です。
34歳までニートをしていたのがクズなのは間違いないでしょうが、社会問題ともなっている高齢ニートは実社会にも確かに存在しています。そんなクズな彼らだって心の底では後悔しているし、生まれ変わってやり直せるならやり直したい、そう思ってるはず。これはそういう人達に着目し、本当に転生したらどうなるかを描いている作品だと思います。
生まれ変わった主人公は、自分がクズだったことを反省し、今度こそ「異世界」で「本気」で生きていこう、と決意します。しかし人間決意しただけでは性根を完全に治すことは出来ず、所々クズさが出てきてしまいます。それでも異世界の人達からすらも学び、ちゃんと成長していく物語となっています。また、クズな部分があるからこそ、他の人のダメなところも許すことができて、主人公の周りには人が集まってもきます。
そもそも、クズだクズだと言っている人も多いですが、人間とは、本来このように心の弱いものではないのか、と私は思っています。
転生したら完璧超人にいきなりなるような事はなく、転生は転生。心の成長とは別の問題だという事を描いている作品です。この作品は人間の弱さや愚かさを隠し立てなく、赤裸々に表現しています。だからこそ、そこからの成長がカタルシスであり、美しく思えるのです。
この漫画化ではその主人公の後悔や弱さをうまく描写できてるとは思えませんでした。この後悔があるからこそ、赤ん坊の頃から努力出来るのに、です。現代日本にいた頃の主人公と赤ん坊の頃の主人公をちゃんと地続きで描いていないから、幼少期の主人公のシモ発言が気持ち悪く思えるのです。主人公を34歳の日本人としてでなく、小さい男の子として見ている証拠です。内面を丁寧に描けていないから、そういった忌避感が読者に生まれてしまうのです。出てくる登場人物はキャラクターに成り下がり、一人の生きた人間でなくキャラという記号に成り下がっているところが随所に見られました。なんとか第1話で見目麗しいロリッ娘魔術師(ロキシー)を登場させようとした焦りが丸わかりになってしまい哀しい気持ちになりました。この漫画に携わっている人達は、この小説の魅力を表現するつもりは無いんだな、と。大好きな原作であるだけに残念でした。
原作が星5だとすると、心理描写の甘さ、原作の魅力の理解不足でマイナス2、という事で星3つとしたい。
しかし、今言ったのは第1巻での話。2巻以降、キャラの内面を描こうという姿勢が見られ、好感が持てます。どうしても第1話でロキシーを出して、読者を集めようという商業的なハードルがあったと理解はできます。ただ、現代、乳児期の心理が今後あらゆる場面で主人公の成長を促してくれるので、そこが弱いのは残念だなぁという事です。個人的には乳児期の終了まで一巻の半分は使ってもいい気がしました。2巻以降は、丁寧に描こうという姿勢が随所に見られプラス1として星4とさせて頂きました。
もし原作を読んでくれるなら、星5は約束できるでしょう。ネットで無料で見れるので、是非ご覧ください。