カスタマーレビュー

2017年1月24日に日本でレビュー済み
本書は、フェニキア人の活動がギリシャ勢力と均衡しつつローマ以前の地中海世界の歴史を作り出した様子を描く。

また沿岸諸地域の別々に見える諸現象が、地中海を媒介としてつながり・構造化され地域横断的な大変動を生み出す様子を、フェニキア人の歴史を通して知ることは、

現在の私たちが直面している世界的変動の行方を考えるうえである種の参照系を提供する、著者は言う。

アルファベットの元となった「フェニキア文字」で知られるフェニキア人は、地中海随一の船乗りとして大海原をまたにかけ活躍した類まれなる商人である。

彼らは単なる中継交易に従事しただけでなく、自らが染色や織物産業、金属加工、象牙細工の熟練した職人集団であり、さらには木材の伐採や運搬、建築、造船の分野に至るまで卓越した技術者集団でもあった。

フェニキア人という名称自体、彼らが自らを指して呼んだものではない。ギリシャ人が東方(オリエント)から主に通商を目的として西方(ギリシャ世界)にやってきた人々を「フェニキア人」と呼んだ。

青銅器時代の「カナン人」から鉄器時代の「フェニキア人」が誕生した背景は、「海の民」の侵略・接触により影響を受け、また半遊牧民であったイスラエル人がシリア・パレスチナへ侵入し定着するなかで生じた軋轢から、交易を求め海へ積極的に出ざるを得なかった背景がある。

アッシリアやペルシアに代表されるオリエントの大国と、小国であるフェニキア諸都市との関係を見ていくと、大国に完全に吸収されて滅びてしまうのではなく、自らの経済力や技術力を武器に大国の狭間でしなやかに力強く生き抜いた姿が鮮やかに蘇る。

彼らの柔軟ではあるが強靭な生き方こそ、国際化社会を生き抜く現代の日本人に多くの指針とヒントを与えてくれるという。

近代工業製品が広汎な大衆的消費者を目指して輸出され、輸出先社会の旧来の身分制度を突き崩していく傾向を持つのに対し、

カルタゴ人の交易活動は、「紫衣」や「香油」といった特別な地位と権力を可視化する「威信財」の輸出にによって、「東方化された」支配層を生み出したという意味で、

鉄器時代に入って始まった西地中海における強固な階級社会の形成に一役買ったとの指摘は、カルタゴを深く研究した筆者ならではの見識である。

シケリアへ侵攻するアテナイの最終的な目的であったカルケドン(カルタゴ)、地中海の覇者をめぐるローマとカルタゴの攻防、アルプスを越えたハンニバルの素顔、などに興味を持ちフェニキア人(特にカルタゴ)について知りたいと思い手に取った次第。

ギリシャ以前からローマの内海になるまでの古代地中海を俯瞰し、またローマ側(勝者)から見たものとは反対(敗者)の視点で歴史を見ることができるお薦めの一書である。
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