カスタマーレビュー

2018年11月12日に日本でレビュー済み
面白かった。ここまでぶっ飛んだ内容の本が芥川賞という権威ある文学賞を受賞できたことに、日本文学の懐の深さを感じた。「クレイジー沙耶香」という著者の異名の通り、非常にエキセントリックな作品だ。

【以下、多少のネタバレあり】
本作はとても品が良いと感じた。とかく伏線らしきものを張るとそれを回収しなければ気が済まない作家も数多いるし、なるたけ悲劇的に、主人公が苦境に陥らなければ人間を描いていると認めない批評家もたくさんいる中、そうした期待や呪いをするりとかわして、話の筋を著者の問題意識に集中させていた。

具体的には、主人公が他人の外形的特徴を盗用している描写が序盤から幾度もあり、盗用について看破されてしまう展開が予想された。しかし、なかった。確かに他の場面で要素が足りていた。また、主人公が男を自宅に招いたときに無理矢理抱かれてしまう展開も予想された。しかし、それもなかった。抱かれようと抱かれまいと本筋には関係ないし、男のクズさのベクトルが作品のテーマからズレてしまう可能性があった。

あくまで、いわゆる「普通」とどう向き合うか、という視点にだけ真摯に向き合っていた。(著者のインタビューに「読者の期待を裏切るのが好き」という趣旨の発言があったから、敢えて罠を張っていたとも考えられるが。)

また、発達障害といった流行りの用語を使用せず、物語に普遍性を持たせている点も優れていると感じた。漫画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』の「あとがき」で、著者の押見修造氏がこのように語っているのを思い出した。

──この漫画では、本編の中では「吃音」とか「どもり」という言葉を使いませんでした。それは、ただの「吃音漫画」にしたくなかったからです。
とても個人的でありながら、誰にでも当てはまる物語になればいいな、と思って描きました。

レビューの中には、主人公を「診断」したり、「治療」の方針を示すようなものもあるが、読み方が幼稚に過ぎる。本作は「◯◯すればいいのに」と一括にはできない射程、示唆に富んだ作品だ。

たくさんの人に読まれて欲しいと思う。
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