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2017年11月17日に日本でレビュー済み
中東と思われる名前が不明の国に住む若い男女Saeed(サイード)とNadia(ナディア)は、夜間のビジネス・スクールで出会った。保険会社に勤務するナディアは全身を覆う黒い衣装を身に着けているが、それは身を守るためであり、宗教的ではないと言う。広告代理店勤務のサイードは、そんなミステリアスなナディアに恋心を抱く。

いっぽう、政府軍と宗教右派ゲリラの間の争いは激しさを増し、無実の者が処刑されたり、住処が破壊されたりするようになっていた。その最中でも、サイードとナディアは、ふつうの若者たちのようにデートを続ける。

だが、二人が務めていた職場が閉鎖し、インターネットや電話もつながらないようになり、家族と絶縁しているナディアはサイードの両親の家に同居することになった。サイードは結婚したがるが、ナディアは躊躇する。

内戦が深刻になるなか、世界中で、空間をショートカットする扉が開く異常現象が起きていた。

サイードの人生を変える悲劇が起きたことをきっかけに、二人はこの国を離れることを考えるようになった。二人は、扉を利用する秘密組織に大金を払って外国に逃げた……。

戦場であっても、サイードとナディアのように若者は仕事をしながら夜間学校に通い、マリワナを吸い、恋をする。作者Hamidの淡々とした語りを読むうちに、ナチス・ドイツでゲットーに移されたユダヤ人たちのことを思い出した。どんな環境でも、人は静かに日常生活を続けていこうとする。平和な生活では本人たちすら忘れている人間の強さがここにある。

人間の絆もそうだ。
だが、その強さが、安全な状況になるとなぜか揺らぐ。この小説Exit Westでも、多くの犠牲を払って祖国を後にしたというのに、安全な土地に移動したサイードとナディアはおとぎ話のようなハッピーエンドを得ることができない。よりましな場所を求めて次の扉を通り抜けるたび、サイードとナディアの心は離れていく。

彼らのラブストーリーは、リアリスティックであり、メロドラマに傾くことを避けたHamidの抑えた文章はブッカー賞の候補にふさわしい。

しかし、私にとってはやや期待はずれだった。

ひとつは、せっかくのマジックリアリズムがあまり有効ではないところだ。
「もし難民の移動が簡単だったらどうなるだろう?」という問いを、「世界中で扉が開く」スペキュラティブ・フィクションの形にした発想はすばらしい。だが、Hamidはそれ以上スペキュラティブ・フィクションの自由さを使おうとしないのだ。そこにとてもがっかりした。

また、新世界に移ってから次第に疑い深く、そして宗教深くなっていくサイードには説得力があるが、ナディアは、西洋の文化に慣れたイスラム教徒の男性が勝手に想像した女性像のような感じで、納得できなかった。

イスラム教をまったく信じておらず、マリワナを吸い、恋人との精神的なコミットメントを避け、後に特に自問することもなくバイセクシュアルになるナディアが、西洋社会に移住しても全身を覆う黒い衣装を着続ける理由も、ひとりの女として、ひとりの移民として、まったく納得できなかった。

この手の「フェミニズム」は、第三者が自分の都合が良いように作っているだけではないだろうか?

「自分が着たいから着ている」という女性がいても、それは、赤ん坊のときからそれが「常識」の社会で育てられたからであって、純粋に自分自身の内声ではないと思う。私は、男性ガイドの強いアドバイスで、モロッコで全身と頭を包む黒い衣装を着て観光をした。そのほうが「安全」であり、「受け入れられる」と言われたからだ。
だが、それが楽だとは思わなかったし、心地良いとも思わなかった。

ナディアの中身が急進的な女性だと設定したのであれば、異なる文化に棲みついてからも「異質の者」と見られることを彼女が選ぶ理由をしっかりと書いてもらいたかった。

増える難民に反感を覚えるロンドンが、オリジナルの住民が住む場所と難民が住む場所を分ける部分にもBrexitを反映した政治的なメッセージを感じた。だが、そのメッセージがうまく伝わっているかどうかは疑問だ。このままでは、もともと反感を抱いている読者に「そりゃあ分けても仕方ないよな」と思われてしまいそうだ。
小説に政治的なメッセージが含まれているのは大いに結構だが、説得力を持って欲しい。

このような理由で、前半だけなら星5つだが、後半部分で星4つ評価になってしまった
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