カスタマーレビュー

2019年7月15日に日本でレビュー済み
 現代ミュンヘンのカフェに座るエドガー。蒼白な顔に凍てついた蒼い瞳が底光りする。長い睫毛、細い鼻筋と頬骨。甦り後の「まだ不完全な指先」を包んでいる黒革の手袋――エドガー、その小さな鞄の中に。

 懐かしいぴりぴりエドガーにどきどき。いつもながら贅沢な漫画、「ポーの一族」がゴシックロマンであることをしみじみと思い出しました。現代消費社会で失われた「美しいもの」が惜しげなく詰め込まれていて、懐かしい浮遊感。
 いくつもの時計が廻る。時が巡る――謝肉祭のヴェネツィア、運河を渡るゴンドラを打つ波音、石の館に響き渡るクラシック音楽。薔薇香るロンドン、黴臭い土と岩に囲まれたカタコンベの異臭、石造りの都の冷たさ。黒いだけの線が色や質感、音、温度や匂いまで伝える「萩尾マジック」は健在です。

 浮世の風に濁ることのない美貌。奇妙な動き、奇矯な反応、周りを騒がす「静謐なる異常」。摂理から外れた身に宿るひんやりとした永劫の欠片。「ひと」ではない彼らが「生き続ける業」を背負わされる矛盾…そうそうそう、吸血鬼はこうでなきゃ、ををを~ワクワク(喜。
 無垢(innocent)と無知(ignorant)が交錯し、衝突する。…アランはどこ? かつてエドガーを「ユニコーン」と呼んだ人がいましたよね?
 ものがたりはまだほんの入り口で、まるでヨーロッパの土地と時間を封じ込めた万華鏡を遠く近くに覗くよう。かつて欧州を席捲していたまばゆい栄光と暗黒、神と魔物、迷信と残酷、裏切りと挫折。爛熟、退廃、混沌――グロテスクまでも抱えこんで輝いていた圧倒的な「美」と「文化」が、「ポー」の中には鮮やかに息づいています。そう、かつて世界は豊饒だった。胡散臭く妖しいものが明るい正しさに絡みついて、その精を吸い取って徒花を咲かせていたのだ。

 やっぱり「複雑」で「わかりづらい」方が底知れなくて面白い。萩尾先生、一族の秘密解明とかはしなくていいです。この匣は開けなくていい(でもきっと開ける。笑)。だって「脳は使うけど理屈で読まない」「空白ごと丸抱えにして読む」のが萩尾作品の愉しみ方なのだ、「お空に放り投げ」られるのいい。こんな漫画は他にない。
 とても体力を使う物語だと思うから、養生しながら描き切っていただけますように(祈。現代日本で「タバタバマリマリ」して続きを待っています。

 余談ですが、表紙のシノワズリのスーツ姿のエドガーとアランが美しい。手で筆で描いてコレだもの、原画展が楽しみです。裏表紙の「回転木馬に乗るふたり」がまた。
服飾に詳しい先生が丹念に描く衣裳は本編でも楽しみだけど、2016年でエドガーがM&Sとかヒート●ックとか着るのは見たいような見たくないような…ネット通販でもクエントン卿がエドガーに見立てたのはせめてBur*rryやAqua%cutumあたりであって欲しいなー。
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5つ星のうち4.6
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