カスタマーレビュー

2018年9月4日に日本でレビュー済み
私はロシアの格闘技システマについて、数ヶ月前まではほとんど知らなかった。かろうじて名前を聞いたことがあるくらい。知人が実践していて、とても面白いと言うので、次第に興味が湧いてきた。

旧ソビエト特殊部隊スペツナズの英雄ミカエル・リャブコがソビエト連邦崩壊後に外部へ教え始めたという、戦場を生き残るための格闘技、というようにだいたい紹介されることが多いでしょう。しかし、言葉から想像するのとはまったく裏腹に、このミカエル・リャブコなる人物はなんとも言えない立派な肥満体であり、その丸い体、丸い顔でニコニコ笑っていて、とてもそんな恐ろしい経歴の人物には見えない。

ところが、YouTubeで稽古の様子を見ると、弟子の攻撃を緩慢な動きだけで完全に無力化してしまっており、その様子は保江邦夫氏の冠光寺流愛魂(あいき)柔術を彷彿とさせた。というか私には合気を使っているようにしか見えない。

とは言うものの、稽古にはストライクという殴る稽古があると聞いて、近所に教室があるというのを知っても、ひ弱な身体の私は数ヶ月尻込みしていた。

そして、その友人が、こんなに書いちゃって本当に良いのか、と思うくらいだという、この本をとうとう取り寄せて読んでみた。

これは、格闘技を紹介する本としては異例な名著である。はっきり言って、ページを捲り始めたら最後、読み終わるまでほとんど止まれなかった。

もともとは普通の格闘技解説書のような形式で書かれていたのだそうだが、編集者・鳥居直介氏の発案で、小説形式を採用して、編集者によって全部書き直されたらしい。北川貴英氏の他のシステマの本「最強の呼吸法」も一冊買って読みかけであるが、それはそのような普通の、真面目な本であり、悪くはないのだが、それほどやってみたい、とは思わなかったので、エクササイズなどはほったらかしで何もやっていない。

しかし、本書の印象は全く違った。ドラマ自立てのサラリーマン小説になっており、当然サラリーマンにありがちなドラマが展開するのではあるが、ミカエル・リャブコとヴラディミア・ヴァシリエフの二人をモデルにしたという、太った謎のロシア人ゲオルグ・システマスキー(架空の人物)の魅力に思わず完全にやられてしまった。

笑いながら読んでいるうちに、いつしか主人公に感情移入してしまい、爽やかに感動してしまった。まったくもって編集者の思う壺である。

小説形式で対話を通じて学んでいくというのは「嫌われる勇気」でも採用されていたし、「神様とのおしゃべり」もそうだった。何かまったく新しい考えを伝える際には、このような対話形式・物語形式が有効だということはほとんど証明されたような気がする。

この謎のロシア人ゲオから主人公に渡される、シンプルな指令のひとつひとつだが、実に示唆に富んでいて、大いに興味を惹かれた。システマが格闘技のための格闘技ではなく、日常生活や仕事においても幾らでも学んだことが生かされていくのだ、ということがほぼ確信出来てしまったように思う。この点、たとえば合気道教室に行って作法や型や技を覚えても、それらはそのままでは仕事に活かすのは難しいだろう。学ぶ意義を伝える、という点でこの本は大いに成功している。

いよいよ道場を訪れるのを先延ばしにする理由がなくなってしまった。
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