カスタマーレビュー

2018年2月16日に日本でレビュー済み
田中芳樹『銀河英雄伝説 2 野望篇』(創元SF文庫、2007年)は常勝の天才と不敗の魔術師を描くスペース・オペラの第二巻である。この巻では銀河帝国と自由惑星同盟の双方に内乱が勃発する。
帝国の内乱は物語にとって必然であるが、同盟の内乱は虚しい。同盟の国力を損なうばかりである。後の帝国の侵攻を考えれば、ヤン・ウェンリーにもクーデター鎮圧に際して同盟軍の損失を少なくする別の方法が採れなかったのかと考えたくなる。
しかし、民主主義は外敵からよりも、自国軍の反乱によって崩壊する方が多いことは歴史的な事実である。その意味ではヤン艦隊の戦いも物語にとって必然である。そして反乱軍を叩き潰すこともヤンにとっては正当であった。ラインハルトと戦う以上に理由のある戦いであった。
帝国の内乱はラインハルトにとって消化試合のように進むが、終結時に衝撃的な事件が起きる。物語のIFを考えたくなるような事件である。物語が折り返し地点に入ったと思ったが、まだまだ序盤であった。この事件はラインハルトの生き方に影響を及ぼす。
物語世界は人工天体を作り、自給自足できる技術を持っている。わざわざ他国の惑星を征服しなくても十分に生きていける上に経済発展も可能な世界である。他人の米櫃に手を突っ込む必要はない。このような状況では宇宙統一は経済的には割に合わない。何がしかのイデオロギーを強く持っていなければ征服戦争をしていられない。
難しい点はパウル・フォン・オーベルシュタインの評価である。組織にオーベルシュタインのような冷徹な人物は必要である。ヤン・ウェンリーも意識的にムライを参謀に選任した。ラインハルトの提督達だけでは軍事ロマン主義に傾きすぎる。
但し、オーベルシュタインには犠牲を出すことに価値を見出しているような倒錯がある。覇業の成就に犠牲が生じることはあるだろうが、犠牲を出したから覇業が成就する訳ではない。無駄な犠牲は避けるべきである。犠牲は少ない方が良く、そこが参謀の知恵の出しどころである。オーベルシュタインにも犠牲を出すことが価値という、ある種の精神主義に陥っているように感じられる。冷徹な組織人の模範とは言えない。
もともとオーベルシュタインは障害者を切り捨てるゴールデンバウム王朝への激しい憎しみが動機となっており、冷徹な組織人と異なることは当然かもしれない。この動機はオーベルシュタインの人間味であり、共感できるが、不必要に広く犠牲を出す方針と同一人の中で収まっていることに違和感がある。
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