カスタマーレビュー

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2016年7月3日に日本でレビュー済み
この第6巻は、特別な重みで手の中にある。
あの物語が終わってしまうという事実がそう感じさせる。
物語自体は、特に大きな変化はなく、「星の子学園」の子どもたちの日常を描いていく。

話自体は淡々と進む。ただ、第5巻の27話で登場した、ゴヤの巨人を思わせる巨大化した純で
全開になったロマンチシズムの余韻が、そこにはある。そして最後に、メルヘンの力が、再度、全開になる。

読みながら思うのは、作者が制作にかけた5年間という歳月の重み。
途中、作者は、童話の作画の依頼を受けるが、「『Sunny』が終わるまでは手がつけられない」と話し、いったん断っている。
(後にそれは『かないくん』となって形になる)。作者は、それだけ集中して、この物語を紡いできた。

その童話と『かないくん』は、「ほぼ日」から出版されている。
ストーリーを担当したのは詩人の谷川俊太郎。彼との対談が「ほぼ日」のサイトに掲載されている。
そこには『Sunny』のことも触れられていて、興味深い。対談の中で、松本大洋は話している。
「描き始めた時に、だいたいの話の展開はできている。さいごまで」
とすると、春男と静がふたりで脱走するというのがラストになるのは、最初から決まっていたのだろう。

松本大洋という名前は、漫画好きにとっては、特別な響きを持っている。
じぶんにとっては、『鉄コン筋クリート』の恐ろしさとファンタジー、『春男』の叙情と野球と寅さん的な風情。
そして『ピンポン』の熱血青春アート絵巻、その完成度の高さ。画力。
物語の力、台詞の魅力、人物造形。すべてが特別な輝きの中にある。

本作『Sunny』は、ある意味、私小説的でもあるので、地味といえば地味な作品だが、
これまでの松本大洋作品の「血」みたいなものが、いちばん色濃く流れ、脈打っている。

本作は、6巻で完結。各巻のカヴァーには、登場人物が主役としてひとり配され、独特の美しさを持ったカヴァーを作り出している。
これは名作『ピンポン』と同じフォーマットで、松本大洋ファンにとっては、心ときめく設定になっている。

物語は、ここで終わってしまい、もう読者はこの続きを読むことができないが、
この作品が産み落とされたこと自体を、喜ぶべきなのだろう。

内容も素晴らしかったが、本作品は、見開き目次、カラーページの折り込みなど、
造本面でも大きな魅力を持っていた。

そしてじぶんとしては、彼の奥さんでもあり、漫画の共同制作者(助手というよりも)でもある
冬野さほさんの存在を強く感じる作品でもあった。
子ども時代、子どもの世界を描いた作品だったからでもあり、女の子も重要なかたちで、
多く登場していたからでもあったろう。

もうひとつ、作者の他作品を挙げるなら、上記した『かないくん』だろう。
『Sunny』の後に描かれたのが、『かないくん』だった。
学生時代に、亡くなってしまった同級生の「かないくん」をめぐってつづられる
「死」に関する物語。その最後に雪が降る。クライマックスを覆う雪の
静謐な熱さとでもいうようなものに、『Sunny』の静けさは通じている。
『Sunny』の最終話で、まったく台詞のない3ページ。
春男たちのキャッチボールの音と、くりまるの鳴き声と、たろうくんが屋根の上でつくっている
シャボン玉だけの3ページ。これは『かないくん』のラストに降る雪のシーンに、受け継がれている。

『Sunny』は、春男表紙で始まり、めぐむちゃんで終わる。
このふたりの間に、全巻が、作者の5年間の歩みが、収まっている。
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商品の詳細

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