江戸川乱歩の原作の文庫とレビューが一緒になってしまっているようですが、これは講談社漫画文庫の横山光輝の漫画へのレビューです。
収録作は「白髪鬼」、「大暗黒」、「魔界地帯」、「邪神グローネ」、「俺はだれ?」の五編。
「白髪鬼」は江戸川乱歩原作のコミカライズ。元をただせば海外のマリー・コレリの小説を黒岩涙香が翻案し、それを更に乱歩が翻案したものを、またまた横山先生がアレンジしたということになります。
妻と友人に裏切られた男が、姿を変えて復讐するという物語ですが、乱歩版では逮捕されて懺悔するのに対して、復讐したところで終わります。むかしの日本の復讐ものは、出版時の倫理的な問題なのか、捕まったり、自分も発狂したりするものが結構多いので、この方がスッとしますね。横山先生は女性不信なのかと思うような作品が割とありますが、本作の悪女描写もなかなかのものです。おおもとが海外の小説だから当たり前ですが、墓地が「火刑法廷」などで見るような地下室なのが日本としては奇異です。
「大暗黒」は小栗虫太郎の同名小説、「人外魔境」シリーズの一篇のコミカライズ。もとは探検シーンは意外と淡白で、主人公山座は深部まで行かず、その存在も無電で知らせるし、小栗らしい超論理・超現象のエピソード(空中浮遊)などもありますが……本作は山座をメンバーとした調査隊の探検部分に重きをおいていて、探検ものという点においては原作より「らしい」ものになっています。結末も謎を残す恐ろしいもの。一応、冒険中の出来事などは、原作にも書いてあることだったりもするのですが、こちらの方が強調されています。もちろん原作に無いアクシデントもかなり追加されています。小栗ものと考えずに単に探検ものとして見たら、本作の方がよく出来てるかもしれません。
「魔界地帯」は、異空間に飛んでしまう穴を見つけてしまった青年の悲劇。横山作品定番の柔和系の顔立ちの美青年が主人公で、しかも何も悪いことをしていないのに、ひどい目にあってしまうというのは可哀想であります。
「邪神グローネ」は、海底火山の噴火をきっかけに発見された像に奇怪な力があることを知った男が悪用をはかり、それに途中で気づいた主人公たちが止めようとするもの。作品の都合上、苦労のわりに邪神が弱いという話が多いですが、これは非常に強く、それを主人公たちが食い止めるので、なかなか迫力のある作品です。
「俺はだれ?」は、なんとなく、よくある気がする短編。ただ、ありがちゆえに面白くもあります。既に不倫をしている遺産目当ての妻をもった大富豪の老人が、病気で余命いくばくもないため、ある男に誘われて若い男と体を交換するというもの。しかし、老人も若い男も皮肉な結末を迎えます。
陰惨ですが、完遂するので痛快でもある「白髪鬼」が、タイトル通り白眉でしょう。小栗ファンとしては、かなりアレンジされているものの、「大暗黒」の収録も嬉しいところです。「白髪鬼」あたりは他の短編集にもとられていたと思いますが、あまり見ない作品も収録されているので、貴重な一冊。
この商品をお持ちですか?
マーケットプレイスに出品する

無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません 。詳細はこちら
Kindle Cloud Readerを使い、ブラウザですぐに読むことができます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
白髪鬼 (江戸川乱歩文庫) 文庫 – 2018/12/18
購入を強化する
家庭を奪われ、財産を奪われた男の戦慄すべき復讐の物語! 九州の西岸にあるS市の旧家大牟田家のあるじ、子爵の敏清は、当時18歳の美女瑠璃子を妻とし、親友川村義雄と三人でしあわせな日をおくっていた。しかし、川村と瑠璃子の邪恋の犠牲となり、敏清は地獄岩から落とされた。しかし敏清は墓所の穴蔵に入れられた棺の中で息をふき返したのであった。暗黒の世界にとじこめられた恐怖は、敏清の黒髪をしらがに変えてしまった…。姦夫姦婦のために家庭を奪われ、財産を奪われた男の戦慄すべき復讐の物語!
- 本の長さ265ページ
- 言語日本語
- 出版社春陽堂書店
- 発売日2018/12/18
- 寸法14.8 x 10.5 x 1 cm
- ISBN-104394301645
- ISBN-13978-4394301646
この商品を見た後に買っているのは?
ページ: 1 / 1 最初に戻るページ: 1 / 1
商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
九州の大名の末裔である大牟田敏清は、妻の瑠璃子と友人の画家・川村と三人で、地獄谷と呼ばれる渓谷へ行く。敏清は断崖から落下してしまう。どれだけの時間が経過したかわからないが、石室に収められた棺に埋葬されたものの、蘇生した。出口を求めて墓穴の内部を探っていると隠された海賊の財宝を発見する。暗黒の世界に閉じ込められた恐怖は、敏清の黒髪を白髪の老人に変えてしまった。屋敷に戻ると、川村と瑠璃子が寄り添う姿を目の当たりにする。敏清は海賊の財宝を使い、復讐を開始する…。
著者について
江戸川乱歩(エドガワランポ) 1894‐1965。明治27年10月21日三重県に生まれる。早稲田大学で経済学を学びながらポーやドイルを読む。様々な職業を経験した後、大正12年、雑誌「新青年」に「二銭銅貨」でデビュー。昭和22年、探偵作家クラブ結成、初代会長に就任。昭和29年、乱歩賞を制定。昭和32年から雑誌「宝石」の編集に携わる。昭和38年、日本推理作家協会が認可され理事長に就任。昭和40年7月28日死去 落合教幸(オチアイタカユキ) 1973年神奈川県生まれ。専門は日本の探偵小説。立教大学大学院在学中の2003年より江戸川乱歩旧蔵資料の整理、研究に携わり、17年3月まで立教大学江戸川乱歩記念大衆文化研究センターの学術調査員を務める。『江戸川乱歩文庫』全13巻(春陽堂書店)監修。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
江戸川/乱歩
1894‐1965。明治27年10月21日三重県に生まれる。早稲田大学で経済学を学びながらポーやドイルを読む。様々な職業を経験した後、大正12年、雑誌「新青年」に「二銭銅貨」でデビュー。昭和2年までに「D坂の殺人事件」などを執筆する。休筆を挟んで「陰獣」などを発表。昭和4年の「蜘蛛男」より娯楽雑誌に長編を連載、昭和11年から「怪人二十面相」を少年倶楽部に連載、少年探偵シリーズは晩年まで続く。同時期から評論も多く手がけ、「鬼の言葉」(昭和11年)「幻影城」(昭和26年)などにまとめられる。昭和22年、探偵作家クラブ結成、初代会長に就任。昭和29年、乱歩賞を制定。昭和32年から雑誌「宝石」の編集に携わる。昭和38年、日本推理作家協会が認可され理事長に就任。昭和40年7月28日死去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1894‐1965。明治27年10月21日三重県に生まれる。早稲田大学で経済学を学びながらポーやドイルを読む。様々な職業を経験した後、大正12年、雑誌「新青年」に「二銭銅貨」でデビュー。昭和2年までに「D坂の殺人事件」などを執筆する。休筆を挟んで「陰獣」などを発表。昭和4年の「蜘蛛男」より娯楽雑誌に長編を連載、昭和11年から「怪人二十面相」を少年倶楽部に連載、少年探偵シリーズは晩年まで続く。同時期から評論も多く手がけ、「鬼の言葉」(昭和11年)「幻影城」(昭和26年)などにまとめられる。昭和22年、探偵作家クラブ結成、初代会長に就任。昭和29年、乱歩賞を制定。昭和32年から雑誌「宝石」の編集に携わる。昭和38年、日本推理作家協会が認可され理事長に就任。昭和40年7月28日死去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
Kindle化リクエスト
このタイトルのKindle化をご希望の場合、こちらをクリックしてください。
Kindle をお持ちでない場合、こちらから購入いただけます。 Kindle 無料アプリのダウンロードはこちら。
このタイトルのKindle化をご希望の場合、こちらをクリックしてください。
Kindle をお持ちでない場合、こちらから購入いただけます。 Kindle 無料アプリのダウンロードはこちら。
登録情報
- 出版社 : 春陽堂書店 (2018/12/18)
- 発売日 : 2018/12/18
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 265ページ
- ISBN-10 : 4394301645
- ISBN-13 : 978-4394301646
- 寸法 : 14.8 x 10.5 x 1 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 627,785位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- - 13,959位ミステリー・サスペンス・ハードボイルド (本)
- - 141,778位文庫
- カスタマーレビュー:
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。

1934年(昭和9年)6月18日、兵庫県神戸市須磨区生まれ。銀行員、映画興行会社などを経て、55年「音無しの剣」でデビュー。56年「鉄人28号」 の連載を開始、大人気となる。2001年1月に完結した「殷周伝説」が遺作となった。91年「三国志」で漫画家協会賞優秀賞、04年「全作品」で文部科学 大臣賞を受賞(「BOOK著者紹介情報」より:本データは『横山光輝「三国志」大研究』(ISBN-10:4267018502)が刊行された当時に掲載されていたものです)
カスタマーレビュー
5つ星のうち3.9
星5つ中の3.9
16 件のグローバル評価
評価はどのように計算されますか?
全体的な星の評価と星ごとの割合の内訳を計算するために、単純な平均は使用されません。その代わり、レビューの日時がどれだけ新しいかや、レビューアーがAmazonで商品を購入したかどうかなどが考慮されます。また、レビューを分析して信頼性が検証されます。
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2021年1月5日に日本でレビュー済み
元々、江戸川乱歩の「少年探偵団シリーズ」が好きで小中学生時代に愛読してました。
高校生になって少年探偵団シリーズも読破したので大人の階段を登る意味で乱歩の他の作品をと思い適当に選んで読んだのが白髪鬼でした。
20年以上前に読みましたが、今でも墓の中で歴代の棺を開ける描写を鮮明に覚えています…
20年以上乱歩から離れていましたが、「孤島の鬼」をつい最近読んで久々に白髪鬼を読み返してみたいなと思いました。
わたしの読書の原点は乱歩なので。
(年齢的に少年探偵団はちょっと…ですが)
高校生になって少年探偵団シリーズも読破したので大人の階段を登る意味で乱歩の他の作品をと思い適当に選んで読んだのが白髪鬼でした。
20年以上前に読みましたが、今でも墓の中で歴代の棺を開ける描写を鮮明に覚えています…
20年以上乱歩から離れていましたが、「孤島の鬼」をつい最近読んで久々に白髪鬼を読み返してみたいなと思いました。
わたしの読書の原点は乱歩なので。
(年齢的に少年探偵団はちょっと…ですが)
ベスト1000レビュアーVINEメンバー
1973年に出た角川文庫版。
「白髪鬼」「一枚の切符」「盗難」「人でなしの恋」「恐怖王」の5篇が収められている。
「白髪鬼」は、壮絶な復讐の物語。プロットが良く出来ている。悪人たちが次第に追いつめられていくさまが楽しい。予定調和の心地よさも。
「一枚の切符」は、ちょっと納得のいかない話だ。
「盗難」は、小気味よい作品。
「人でなしの恋」は、美しくも哀しい話。乱歩の傑作の一つだろう。
「恐怖王」は、なんだか消化不良というか。
「白髪鬼」「一枚の切符」「盗難」「人でなしの恋」「恐怖王」の5篇が収められている。
「白髪鬼」は、壮絶な復讐の物語。プロットが良く出来ている。悪人たちが次第に追いつめられていくさまが楽しい。予定調和の心地よさも。
「一枚の切符」は、ちょっと納得のいかない話だ。
「盗難」は、小気味よい作品。
「人でなしの恋」は、美しくも哀しい話。乱歩の傑作の一つだろう。
「恐怖王」は、なんだか消化不良というか。
2011年12月24日に日本でレビュー済み
どこかで読んだストーリーと思ったのも道理、原作・江戸川乱歩でしたか。こういう話はでも、横山先生のいかにも好むものでもあるのでこのチョイスは納得出来ます。誰も幸せにならないラストとか、いい余韻のある話でした……。
冒険モノにファンタジーもの、色々な話が他にも収録されています。投げっぱなし、放りっぱなし的なラストが多いのには、人間に出来ることなど限られているというそんなメッセージ性を感じました。読み応えのある話が4編、お勧めです!
冒険モノにファンタジーもの、色々な話が他にも収録されています。投げっぱなし、放りっぱなし的なラストが多いのには、人間に出来ることなど限られているというそんなメッセージ性を感じました。読み応えのある話が4編、お勧めです!
2008年6月19日に日本でレビュー済み
白髪鬼は翻案物なので、プロットに若干無理なところもあるが(西洋式墳墓や海賊の宝)、
それを補って余りある乱歩ワールドが展開する。特に主人公による一人称独白体はこの作
家ならではの雰囲気を醸し出してあますところない。考えてみればずいぶん残虐な復讐が
展開するのに、意外にも血なまぐささは少ない。乱歩作品にはそういうプラスティックめ
いた、或いは人工的な趣向が強いのだ。復讐を貫徹した主人公にはその出自にふさわしい
気品めいたものさえ漂い、いっそ爽やかでさえある。またこの小説には隠された主題とし
てのホモセクシュアリティもある。
それを補って余りある乱歩ワールドが展開する。特に主人公による一人称独白体はこの作
家ならではの雰囲気を醸し出してあますところない。考えてみればずいぶん残虐な復讐が
展開するのに、意外にも血なまぐささは少ない。乱歩作品にはそういうプラスティックめ
いた、或いは人工的な趣向が強いのだ。復讐を貫徹した主人公にはその出自にふさわしい
気品めいたものさえ漂い、いっそ爽やかでさえある。またこの小説には隠された主題とし
てのホモセクシュアリティもある。