この漫画が異種族間交流を描いているというのは今更改めて言うことでもないのだが、連載が開始された頃よりも物語の持つメッセージ性の訴求力がより上がっているようにも思える。例えば連載開始からまもなく始まったBLMと重ね合わせてもいいかも知れないし、LGBTに対する認識の変化にも、男女のジェンダーの問題にも、国内にて特に顕著に感じる右左の政治思想でもいいかもしれない。多様な価値を認めあわねばならないという言葉が盛んに唱えられるわりにはこういうファンダム間の分断が縮まる気配は一向に見えないようにも感じる。そもそもそこには何らかの決定的な違いというものがあるので、難しい話であるのかもしれない。
エルマの祖母である調和勢な筈のテルネが小林と彼女の務める会社のビルを潰してしまおうとするシーンなどはコメディ展開の続くこの巻にてちょっとぞくっとするところだが、人間とドラゴンの共生する日常が文字通り指先一つで崩壊させることが出来るというのを示唆している訳である。どれだけ言葉を弄してわかりあおうとしたとしても、人間とドラゴンの関係というのは一個人の気まぐれで破綻してしまうほど危ういものなのだ。
力を簒奪されてただの人間として此方の世界にやってきたアーザードにはかつてのような野心を実現させられるだけのものは手元に無く、与えられた任務を全うする以外に選択できるものは何もないが、持たざる者になったことで見えるものもある。ひとりになる時間、恋愛というパーソナルな感情から、種族間の確執など社会的なアングルまで、多層的な構造から本作は分断を超える未来を模索し続けている。作者にその最終的な絵が見えているのかはまだ解らないが、この先も追っていこうと思わせる漫画である。正直、9巻はテーマ的には兎も角、エンタメとしてはいまいちに思ったが、この巻はシリアスと笑いのバランスがよく文句はない。個人的に辟易していた過度なエロもわりと抑えめの感がありそんなに気にはならなかった。テーマ的に若干の説教臭さはついてまわるのは仕方ないだろう。その分の”楽しさ”についてはエルマのOL日記で補充しているので問題ない。出版社側の販売戦略にいい具合に乗せられてしまってる感じもするが、別にいいんだよ面白いんだから。
それから、アニメの2期の放送決定、本当におめでとうございます。
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