前回の23巻、もっと言えば21巻ラストの鶴見中尉が取り乱すシーンから多少の違和感を覚えてはいましたが、また持ち直すのではないかと思い引き続き24巻も購入しました。しかし24巻を読んで、残念ながらゴールデンカムイが以前の良さを取り戻すことはもうないだろうと判断せざるを得ませんでした。以下、長文&ネタバレと一部下品な表現を含みますのでご注意ください。
【○○探偵???】
24巻後半に収録されている238・239話の低俗さに絶句しました。鶴見中尉の部下である菊田と宇佐美が札幌で娼婦連続殺人犯を追うのですが、事件現場でジイをする性癖の持ち主である犯人と宇佐美が液を撃ち合って戦うというシーンは(読んでいない方には意味がわからないかもしれませんが、私にもわかりません…)見ていて苦痛でした。ギャグや下ネタは以前からあったものの、今回はこれまでのものよりも程度が酷く、いくら漫画と言っても限度があると思います。ゴールデンカムイが最初からこんな漫画だったならそもそも読んでいなかったでしょう。
これまでにも姉畑支遁が動物と行為に及ぶシーン、稲妻強盗と蝮のお銀夫妻の行為シーンなど性的シーン自体は出てきましたが、いずれも液の描写まではありませんでした。今回のシーンはそれを力を入れて描写してしまったことで生々しく汚らしく感じられました。
また、これまでの戦闘シーンは銃や毒矢の機能を解説したり、物理的にあり得ないことは起こらなかったりと現実的で読みごたえがありました。杉元たちが姉畑を捕獲しようとした回でも、杉元たちは銃や矢を使っており、あくまで戦闘描写はふざけたものではなかったはずです。しかし今回の囚人との戦闘シーンはあまりに馬鹿げており、これまでのゴールデンカムイのシリアスな話まですべてぶち壊しにしかねないと思いました。
最大の問題は、レギュラーキャラクターであり、旧日本陸軍兵士の宇佐美に変態行為をさせてしまったことだと思います。よく槍玉にあがる辺見や姉畑、江渡貝などはゲストキャラクターで、最初から倒錯したキャラとして登場し、そのエピソード限りで亡くなって退場しています。今回も犯人だけならまだ良かったかもしれませんが、宇佐美は以前から登場していたキャラクターです。急にこのような行為をさせるのは唐突に感じますし、何よりこんな扱いではキャラクターが気の毒です。
また、宇佐美は旧日本陸軍第七師団の兵士という設定ですから、彼を変態キャラにするのは旧日本軍や第七師団という実在した組織まで貶めているように感じます。第七師団を敵役として描いていても、シリアスな描写ならフィクションとして許容される範囲内だと思いますが、今回のような描写はさすがにどうなのかと…冒頭に「この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません」と書いてあれば何をしてもいいと思っているのでしょうか? もしそうなら作者と集英社の良識を疑います。実在した人物や団体を扱う以上、最低限の敬意は持ってほしいです。
青年誌なのだからこのくらい良いだろうと言う人もいますが、青年漫画=成人向け漫画というわけではありませんし、ゴールデンカムイはただの娯楽作品ではありません。以前のゴールデンカムイはギャグやエンターテイメント性を交えつつ、アイヌ文化と当時の北海道や樺太、ロシアの様子を伝える良質な漫画だったので、大変もったいないことだと思います。これまでこの作品のために取材に協力してきた方たちの気持ちを考えるといたたまれません。
【谷垣夫妻出産の顛末】
上記の話にすべて持っていかれた感がありますが、24巻始まりの谷垣夫妻出産の顛末にも非常に落胆しました。特に谷垣が以前とはまるで別人のような不誠実な人物になっており、ショックを受けました。
月島に追われて突然フチの家に現れ、フチたちに出産を手伝わせて無事に子供が生まれると、インカラマッと生まれた子を連れてあっさりとコタンを去ってしまう谷垣。あまりに情がなさすぎです。「アシリパをフチのもとへ連れて帰る」という約束はどうなってしまったのか…23巻ラストの展開を読んで、まさかこのまま終わりはしないだろう、谷垣はインカラマッと子供を安全な場所に預けてアシリパを探しに行くのではないか? と思っていましたが、期待を裏切られる形となりました。
鯉登と月島にもがっかりしました。23巻の展開では鯉登がかっこいいという感想が散見されましたが、家族に相談もなく家の一大事を勝手に決めてしまうような男はかっこいいとは思えません。鶴見中尉は日本政府や軍中央部へのクーデターを計画している危険人物です。そんな鶴見中尉を「見届ける」などと暢気なことはありえません。死ぬ気で付いていくか、やはり決死の覚悟で軍中央部に通報するかのどちらかしかないでしょう。鯉登が父親である鯉登少将に連絡する描写がないのはなぜでしょうか? 鯉登少将がどこまで知っていて鶴見中尉に協力しているのか、鯉登はすぐにでも問いただすべきだと思います。
月島にしても、長年鶴見中尉の右腕を務めていたにもかかわらず、すっかり鯉登の側近のようになってしまったことには疑問を覚えます。例えば鯉登が月島の命を助けたりといった絆が深まるエピソードがあったなら理解できますが、実際には樺太編の最後で逆に月島が鯉登をかばって怪我をしていますし…21巻の「私は鶴見劇場をかぶりつきで観たいんですよ 最後まで」という台詞は何だったのでしょう? 今回月島が鶴見よりも鯉登に付いていくことを選んだことで、月島の言っていることは何が本当なのかわからないな…と不信感を持ってしまいました。「鶴見劇場…」の台詞が出てくる話を読んだ時は、何だこれは、こんな敵のボスと腹心キャラは見たことがないぞ! とわくわくしたものですが、まさかこのような結末になってしまうとは思わず、残念でした。
24巻は、谷垣とインカラマッを取り逃がす、右腕であった月島に裏切られる、鶴見中尉が「役に立つ」と豪語した宇佐美が上記の有り様、さらに表紙を飾った菊田は軍中央部のスパイであることが明らかになるなど、鶴見中尉にとっては散々な展開続きでした。敵のボスである鶴見中尉の求心力がこれほど下がってしまうと、これからのストーリーにも期待できなくなってしまいます。
また、樺太編で白石との信頼関係が深まったと思っていた杉元とアシリパが白石のことを金塊を独り占めにするのではないかと疑う、訳あって両親と異母弟を殺害したという重い過去を持つ尾形が父親を背負う「孝行息子」の芸を披露するなど、ギャグで済ますには行き過ぎた描写も目立ちました。
少年ばかりを狙って殺害する殺人犯・上エ地が出てきてしまったことも一線を越えたように思います。アシリパの父・ウイルクが脱獄させた囚人のせいで子供にまで被害が及んだとなっては、もうウイルクの計画を見守る気にはなりません。24人もの囚人を考えるのは大変でネタ切れになってしまったのでしょうか…
確かにゴールデンカムイは、刺青を彫られた囚人の皮を剥いで暗号を解く、凶悪な殺人犯たちが登場する、金塊を巡って仁義なき戦いや裏切りが繰り広げられるという一見血なまぐさい内容です。しかしそんな中にも仲間たちが笑顔で食事を共にする、杉元たちが旅先で出会った人に助けられる、逆に困っている人を助ける、アイヌの少年・チカパシの成長が描かれるといったシーンがあり、どこか温かみのある作風が魅力だと思っていました。その両方が揃っていたからこそ、ここまで人気が出たのではないでしょうか。
24巻はこれまでとは別の作者が描いているのかと思うほど、真摯さや温かみに欠けた描写が多かったです。少なくとも私は、24巻の内容のようなゴールデンカムイを見たくはなかったです。
これ以上読んでも、きっと不愉快な表現やこれまでのキャラクターの長所を壊すような描写が続くだけだろうと思います。以前は大好きな漫画だっただけに心苦しいですが、私の中でゴールデンカムイは22巻で完結したと思うことにします。
2020.12.27 追記:迷った末、今回はカスタマー都合で返品することにしました。繰り返しますが以前は何度も読み返すほど好きな漫画でした。本当に残念です。
2021.01.19 追記:くどいかとは思ったのですが再度追記します。
本当に子供に見せられない作品というのはこんなものではないと思います。ゴールデンカムイ以上にインモラルな内容や性描写・残酷描写が過激な青年漫画はいくらでもあります。そのような作品と比べると、ゴールデンカムイのグロテスクなシーンや性描写はかなり穏やかな方です。姉畑支遁のエピソードも、やろうと思えばもっと生々しく詳細に描画できたところをあのレベルの表現に抑えていると言えます。22巻までの内容なら、ある程度大きいお子さんが読む分には問題ない作風だったと思うのですが…
個人的に残念だと思ったのは上記のレビューで書いたことに加えて、「今回のような下品なバトルシーンが描きたいのなら、なぜ最初の数巻のうちにそれを示しておかなかったのか? なぜアイヌ文化や北海道の歴史の紹介という真面目なテーマと組み合わせてしまったのか?」ということです。
初期に今回のようなシーンがあればそういう要素が好きなファンが集まったでしょうし、合わないと思った人は早いうちに読むのを止めることができたでしょう。20巻以上も経ってからでは、今まで骨太なバトルシーンやシリアスなストーリーを期待して読んできた読者と作者、双方にとって時間の無駄になってしまったと思います。
以前の作風からは作者の趣味を反映させつつ、アイヌや北海道についてより多くの人に知ってもらいたいという誠実さが感じられたのですが、23~24巻は急激にそれが感じられなくなり、作者の趣味を前面に押し出したような作風になってしまいました。
樺太編でチカパシ少年の巣立ちと谷垣との別れ、元は二瓶の猟犬だったアイヌ犬・リュウの橇犬としての再出発、月島が家出娘のスヴェトラーナの境遇にかつての自分と恋人の姿を重ね合わせて諭したシーンなど、良いエピソードを数多く描いていた作者にどんな心境の変化があったのでしょうか? とても困惑しています。
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ゴールデンカムイ 24 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL) Kindle版
「天から役目なしに降ろされたモノはひとつもない」 金塊の手掛かり、刺青人皮も残す所、あと僅か…。己の役目とは何か? 命と命が交差するッ! 土方一味、第七師団、凶悪囚人、札幌大集結!! VS海賊房太郎、水中戦!!! 怒濤の波濤に、息継ぎ禁止の第24巻!!!!!!!
- 言語日本語
- 出版社集英社
- 発売日2020/12/18
- ファイルサイズ64499 KB
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カスタマーレビュー
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上位レビュー、対象国: 日本
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2020年12月22日に日本でレビュー済み
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207人のお客様がこれが役に立ったと考えています
役に立った
2020年12月19日に日本でレビュー済み
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姉畑先生を経ておきながら、いまさら「子供に見せられない」は無いと思います。
ヤングジャンプの作品ですよ。少年ジャンプならまだしも。
ヤングジャンプの作品ですよ。少年ジャンプならまだしも。
ベスト1000レビュアー
Amazonで購入
最近、変態要素が多すぎですが、今回のは度を超えています。
こういう描画があると子供に見せられる漫画ではなくなります。
大変残念ですが、大きな信頼を失ったと思います。
追記
息子がアイヌ文化に興味を持った時にこの漫画を教えようと思ってましたが、今回のこの1話の話のせいで台無しです。
問題の1話が無いやつを再出版して欲しいです。
せっかくアイヌ文化を深く研究してこれほど文化的な価値のある作品に仕上げたのに、たった1話の暴走で闇に葬らなければならないのは大変な損失です。
こういう描画があると子供に見せられる漫画ではなくなります。
大変残念ですが、大きな信頼を失ったと思います。
追記
息子がアイヌ文化に興味を持った時にこの漫画を教えようと思ってましたが、今回のこの1話の話のせいで台無しです。
問題の1話が無いやつを再出版して欲しいです。
せっかくアイヌ文化を深く研究してこれほど文化的な価値のある作品に仕上げたのに、たった1話の暴走で闇に葬らなければならないのは大変な損失です。
2020年12月18日に日本でレビュー済み
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週刊のほうも追いかけてますが、単行本も楽しみにしている派です。
無事に前巻で生まれたゲンジロちゃんの愛娘から始まり、この巻も目が離せませんでした!
オソマちゃんの成長、鯉登少尉と月島軍曹の関係、海賊さんとのやりとり、キャビア、土方一行の変装などさまざまな見どころがあると思いますが、個人的には○○探偵を一押しです。
おそらくこのマンガのあの人物でしか使われないパワーワードでしょうが、たぶん一生忘れないし、これに続く銃撃戦?については新たな表現方法が開拓された傑作です!パオパオ!
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おそらくこのマンガのあの人物でしか使われないパワーワードでしょうが、たぶん一生忘れないし、これに続く銃撃戦?については新たな表現方法が開拓された傑作です!パオパオ!